始めに(特徴紹介)
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(ミッシェル・ガン・エレファント)のギタリスト、アベフトシ(安部フトシ)は、日本のロック史において最も影響力のあるギタリストの一人として語り継がれています。
1991年から2003年までの12年間という短い活動期間でありながら、その鋭利で攻撃的なギターサウンドは多くのミュージシャンに衝撃を与え、現在でも「アベフトシ系」と呼ばれるギタリストが数多く存在するほどです。
彼のサウンドの最大の特徴は、極めてシンプルな機材構成でありながら、圧倒的な音圧と切れ味を実現していることです。基本的にはテレキャスター1本をハイゲインアンプに直結し、エフェクターは一切使用しない「ギター&アンプ直結」スタイル。
代表楽曲「キャンディ・ハウス」「世界の終わり」「ゲット・アップ・ルーシー」では、そのカッティングの鋭さと、まるでナイフで切り裂くような音色が如実に表現されており、特に強烈なダウンピッキングによる重厚なリフと、息をつかせぬような高速カッティングの対比が印象的です。
2009年に急逝した後も、その音作りの哲学とサウンドは多くのギタリストに受け継がれ、ロック界においてレジェンド的な存在として語り継がれています。アベフトシの音を理解することは、日本のロックギター史を理解することと言っても過言ではありません。
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使用アンプ一覧と特徴【THEE MICHELLE GUN ELEPHANT・アベフトシ】
アベフトシの音作りにおいて、アンプは極めて重要な役割を果たしていました。彼が使用したアンプは時期によって変遷しており、それぞれが異なる音楽的背景と共に選択されています。
初期から中期(1996年〜2000年頃)にかけては、Fender The Twinが主力アンプでした。現在流通しているTwin Reverbとは異なり、The Twinは歪みやすい特性を持っており、アベフトシはクリーンチャンネルとリードチャンネルをミックスして使用していました。このミックス使用により、クリーンな音色の透明感とリードチャンネルの歪みが絶妙にブレンドされ、あの独特の「エッジの効いた歪み」が生まれていたのです。
中期から後期(2000年〜2003年)にかけては、Marshall JCM900をメインアンプとして使用するようになりました。これは大会場でのライブが増えたことと、より重厚で攻撃的なサウンドを求めた結果と考えられます。JCM900の持つハイゲインでありながらタイトな音色は、アベフトシの激しいカッティングプレイに最適でした。
また、特定の楽曲録音時にはSUNN Model Tも使用されており、「カサノバ・スネイク」や「ロデオ・タンデム・ビート・スペクター」では、このアンプの重厚で野太いサウンドが楽曲の世界観を支えていました。大会場での演奏時にも、その圧倒的な音量と存在感で観客を圧倒したとされています。
機材名 | メーカー | Amazon最安値URL | アーティスト | ギタリスト | 備考 |
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The Twin | Fender | Amazon検索 | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | 初期〜中期メインアンプ。クリーン・リードチャンネルミックス使用 |
JCM900 | Marshall | Amazon検索 | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | 後期メインアンプ。2001年頃〜解散まで使用 |
Model T | SUNN | Amazon検索 | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | 「カサノバ・スネイク」レコーディング、大会場ライブで使用 |
Dual Showman | Fender | Amazon検索 | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | 1999年大会場ツアー「World Gear Blues Tour」で使用 |
使用ギターの種類と特徴【THEE MICHELLE GUN ELEPHANT・アベフトシ】

アベフトシのギターと言えば、何と言ってもSeen Telecaster Customが象徴的です。Seenは原宿にある松下工房のオリジナルブランドで、アベフトシのために特別に製作されたテレキャスター・カスタムは一号機から七号機まで存在しました。
その中でも最も有名なのが四号機です。黒いボディに赤いベッコウ柄ピックガードという外観は、もはやアベフトシの代名詞と言えるでしょう。1998年からTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのラストライブまで使用され続け、「よほどのことがない限りこれ一本」というほど愛用されました。
四号機のスペックは、アッシュボディ(ヘヴィアッシュ)、メイプルネック、ローズ指板で、ネックとボディを4点止めでオーダーしていました。フロントピックアップにはFender Wide Range Humbucker、リアピックアップにはFender Original Vintage Telecasterピックアップが搭載されており、この組み合わせが独特の音色を生み出していました。
特徴的なのは、激しいストロークで手が当たらないように、ピックアップセレクタースイッチがトーンツマミ周辺に設置されていることです。また、ピックアップはほとんどリアのみを使用しており、これがあの鋭利でエッジの効いたサウンドの源泉となっていました。
初期にはGRETSCH Silver Jetも使用されており、「世界の終わり」のMVや「cult grass stars」のレコーディングで使用されました。ダイナソニック・ピックアップ搭載で、ビグスビーアームからキャデラックテールピースに変更されていたのも特徴的でした。残念ながら後に盗難に遭ってしまいましたが、初期のミッシェルサウンドを語る上で欠かせない楽器でした。
その他にも、イギリスで購入したBURNS 1960’s SPLIT SONICを「バードメン」のPVやシングル「ゲット・アップ・ルーシー」のレコーディングで使用するなど、楽曲に応じてギターを使い分けていたのも、アベフトシの音作りへのこだわりを物語っています。
機材名 | メーカー | Amazon最安値URL | アーティスト | ギタリスト | ギターの種類 | 備考 |
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Telecaster Custom(四号機) | Seen | Amazon検索 | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | テレキャスター | 1998年〜解散まで使用のメインギター。黒ボディ・赤ベッコウPG |
Silver Jet | GRETSCH | Amazon検索 | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | セミアコ | 「世界の終わり」MV、「cult grass stars」レコーディング使用 |
SPLIT SONIC | BURNS | Amazon検索 | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | ソリッドボディ | 「バードメン」PV、「ゲット・アップ・ルーシー」レコーディング使用 |
Telecaster Custom(一号機) | Seen | Amazon検索 | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | テレキャスター | 初期使用。黒ボディ・ヒョウ柄PG。「キャンディ・ハウス」MV使用 |
Telecaster Custom(五号機) | Seen | Amazon検索 | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | テレキャスター | 黒ボディ・ホワイトパールPG。「暴かれた世界」MV使用 |
使用エフェクターとボード構成【THEE MICHELLE GUN ELEPHANT・アベフトシ】
アベフトシの音作りにおいて最も特徴的なのは、エフェクターをほとんど使用しないという点です。これは当時のロックギタリストとしては非常に珍しく、むしろ革新的なアプローチでした。基本的には「ギター→アンプ直結」というシンプルな構成で、あの圧倒的なサウンドを作り出していたのです。
ライブにおいては、エフェクターを使用することは皆無に等しく、純粋にギターとアンプの組み合わせ、そして何より彼自身の演奏技術によってサウンドを構築していました。これは「機材に頼らず、自分の腕でサウンドを作る」という哲学の表れであり、多くのギタリストに影響を与えた要因の一つでもあります。
唯一確認されているエフェクターはVOX V847 ワウペダルで、「cult grass stars」のレコーディングや「リメンバー・アムステルダム」「バランス」などの楽曲で使用が確認されています。しかし、ライブでの使用は極めて稀で、主にスタジオワークでの音色のバリエーションとして活用されていました。
また、BOSS TU-12 チューナーをアンプ前(アンプ上部)に設置していたことも確認されており、これは純粋にチューニング用途での使用でした。チューナー以外の音色を変化させるエフェクターは、基本的にライブでは使用せず、「素の音」で勝負するスタイルを貫いていました。
この極めてシンプルな構成は、逆に言えば誤魔化しの利かない音作りでもありました。エフェクターで音を加工することなく、ギター本来の音色とアンプの特性、そして演奏者の技術のみでサウンドを構築するため、非常に高い演奏技術とサウンドメイキング能力が要求されます。
アベフトシのサウンドの核心は、強烈なピッキングによる弦の振動、それをダイレクトにアンプで増幅することで生まれる「生々しい音の迫力」にありました。現代のギタリストが様々なエフェクターを駆使する中で、このシンプルさは逆に新鮮であり、多くのフォロワーを生み出す要因となったのです。
音作りのセッティング・EQ・ミックスの工夫【THEE MICHELLE GUN ELEPHANT・アベフトシ】

アベフトシの音作りの核は、極限まで削ぎ落としたシンプルな構成にあります。ギターとアンプだけという構成は、言い換えれば音作りのすべてを「指と耳」に委ねるということ。そこには奏者としての経験値と鋭い感性が必要とされました。
まず初期~中期のメインアンプであったFender The Twinでは、彼は「クリーンチャンネル+リードチャンネル」を同時に使う独特のセッティングを施していました。
クリーンチャンネル設定:
Volume 5, Treble 4, Middle 1, Bass 1
リードチャンネル設定:
Gain 8, Treble 4, Middle 10, Bass 10, Presence 0, Volume 5, Reverb 0
この両者を並列で使用することにより、透明感と歪みの両立を実現しています。特にミドルの極端な値設定は、「ヌケが良く、なおかつ芯がある」アベフトシサウンドの根源です。
次に後期で使用したMarshall JCM900では、よりストレートで太いサウンドを目指すセッティングが施されました。
JCM900設定:
Gain 10, Treble 0, Middle 10, Bass 10, Presence 0, Reverb 0
高音域を完全にカットし、中低域に極振りすることで「耳に痛くないが攻撃的」なトーンを形成。この設定は非常に珍しいですが、強力なピッキングと合わさることで、実に存在感のあるサウンドに昇華されました。
SUNN Model Tではよりクラシックかつダイナミックな音を目指し、以下のようなセッティングが確認されています。
SUNN設定:
Gain 5, Treble 5, Middle 10, Bass 7, Presence 0-3, Volume 4-5, Reverb 0
中域の強調は一貫しており、バンドサウンドの中でも埋もれず突き抜ける役割を担っていました。
ミックスにおいても「アベフトシのギターはEQでいじらない」という原則があったとされ、アンプから出たそのままの音をマイキングするというアプローチが取られました。コンプやEQで整えず、ライブの荒さをそのままレコーディングに落とし込むことで、「ライブとレコーディングでの一貫性」を保つことができたのです。
曲ごとの音色の変化というよりは、プレイスタイルでニュアンスを付けていくのが彼の特徴。ピッキングの強弱やストロークの位置、指板上の押弦ポイントで変化をつけるという、まさにプレイヤーとしての地力が試される音作りでした。
比較的安価に音を近づける機材【THEE MICHELLE GUN ELEPHANT・アベフトシ】
アベフトシさんのサウンドを再現するうえで、最も重要なのは“直結に近いシンプルな接続とハイゲインアンプの歪み”です。
彼のプレイスタイルは極めて攻撃的なピッキング、鋭いカッティング、そしてミッドに寄った太くヌケのいいサウンドが特徴です。
そのため、比較的安価に再現を目指すには「中域が強く出るシングルコイルまたはP-90系のピックアップを持つギター」と「ミッドレンジが効いたアンプ」、加えて「最小限の歪みペダル(ブースト補助)」を組み合わせることが鍵となります。
種類 | 機材名 | メーカー | Amazon最安値URL | アーティスト | ギタリスト | 備考 |
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ギター | Classic Vibe Telecaster Custom | Squier | Amazonリンク | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | 黒ボディ+白ピックガードで雰囲気が近い。中音域が前に出るシングルコイルで鋭いカッティングに最適。 |
アンプ | Katana-50 MkII | BOSS | Amazonリンク | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | MarshallやFender系のモデリングを内蔵。中域の効いたJCM900的な歪みに設定可能。練習からライブまで対応。 |
ワウペダル | V847A Wah Pedal | VOX | Amazonリンク | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | アベフトシ本人も「cult grass stars」などで使用。踏みっぱなしで音色調整に活用可能。 |
ブースター | SD-1 SUPER OverDrive | BOSS | Amazonリンク | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | Marshall系の歪みにプッシュを加えたいときに最適。太い中域が特徴で、JCM900風味の再現に効果的。 |
マルチエフェクター | Zoom G1X FOUR | ZOOM | Amazonリンク | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | SUNNやFender Twinのモデルも内蔵。EQやワウも搭載し、これ1台でサウンド構築可能。初心者に最適。 |
シールドケーブル | カールコード シールドケーブル(10m) | Providence(またはLEKATO) | Amazonリンク | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | ALBAS製は廃盤のため、代替としてヴィンテージ風のカールケーブルを推奨。視覚的にも再現度が高い。 |
ピック | Fender 346 Medium Picks White | Fender | Amazonリンク | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | アベフトシが使用した「おにぎり型」ピック。ミディアムゲージで扱いやすく、攻撃的なピッキングに適す。 |
弦 | S1046 Nickel Plated Steel Strings | SIT Strings | Amazonリンク | THEE MICHELLE GUN ELEPHANT | アベフトシ | キャリア後半で使用。テンション感と音の輪郭がはっきり出るのが特徴。初心者でも入手しやすい。 |
これらの機材を組み合わせることで、アベフトシ氏の「轟音なのに輪郭がある」という独特なサウンドにかなり近づくことができます。
特にSquier製のTelecasterとKatanaアンプは非常に相性がよく、ピッキングのニュアンスも忠実に再現可能です。
ブースターを加えることで音の密度や抜けを調整でき、Zoom G1X Fourなどのマルチを使えばコストを抑えつつ幅広い再現が狙えます。
総括まとめ【THEE MICHELLE GUN ELEPHANT・アベフトシ】

アベフトシ氏のギターサウンドは、まさに「衝動」と「魂」が剥き出しになったロックンロールの極致と言えるでしょう。
その音作りの本質は、複雑なエフェクトや多層的なプロセッシングではなく、プレイヤー自身の肉体性とリズム感がストレートに表れる“シンプルかつダイレクト”なスタイルにあります。
代表的な使用機材としては、松下工房のSeen製テレキャスター、Fender The TwinやSUNN model T、そしてMarshall JCM900などのパワフルなアンプ群が挙げられます。
それらを基本的に「アンプ直」で鳴らし、時折VOXのワウペダルを加える程度で音作りの幅を広げていました。
特筆すべきは、ピックアップの選び方とリア中心のセレクターセッティング。
アッシュボディやアルダーなど素材の違いはあれど、共通して言えるのは「ミッドレンジを軸とした音抜け重視の設計」です。
さらに本人の圧倒的なピッキングの強さが、音に凄まじい切れ味と存在感を与えています。
一方で、アベフトシ氏のサウンドを真似るうえで難しいのが、機材よりも“感覚”に依存する部分が大きい点です。
音の粗さ、ルーズさ、そして計算されていないようで絶妙に成立しているカッティング――これはコピーしようとしても、同じ機材を使っただけでは絶対に得られないニュアンスです。
だからこそ、彼の音に近づくには「荒っぽさを恐れず、むしろ武器にする勇気」が必要になります。
初心者や再現を目指すプレイヤーには、SquierやBOSSなどの再現性の高い廉価モデルを使うことで、まずは土台となる音質を確保し、自分なりに“暴れたニュアンス”を加えていくことが重要です。
ピッキングの強弱やリズムの取り方、ストロークの揺らぎなど、プレイヤーのフィジカルな部分こそが「アベフトシらしさ」の核心であると言えるでしょう。
最後に、彼の存在は単なるギタリストにとどまらず、「THEE MICHELLE GUN ELEPHANTという暴走列車のエンジン」としてバンドを牽引していた偉大なプレイヤーでした。
彼のサウンドを追いかけることは、単に音色をコピーするだけではなく、“自分の中にあるロックの原点”を再確認する行為とも言えるのかもしれません。
その意味でも、この記事がアベフトシ氏の音に触れ、追いかけるきっかけとなれば幸いです。
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