始めに(特徴紹介)
THE BAND APART(バンアパ)のギタリスト・川崎亘一(かわさきこういち)氏は、独自のコードワークとトーンメイキングで、邦楽ロック・オルタナ・ジャズファンクなどジャンルの垣根を越えたギタープレイを展開しています。彼のギターサウンドは、メロウでありながらもタイトで芯のあるトーンが特徴で、アンサンブルの中で立体的に響くその存在感はバンアパサウンドに欠かせない要素となっています。
代表曲「Snowscape」「Eric.W」「Castaway」などで聴けるサウンドは、クリーンと歪みを絶妙に使い分けるセンスが光ります。バンド全体がリズムアンサンブルを重視するスタイルを持つ中で、川崎氏のフレージングは時にリード的、時に和声的な役割を果たしながら、絶えずグルーヴの芯を保っています。
そんな彼の音作りの中核を成すのが、モズライトをベースとしたカスタムギターや、Orangeアンプによるローミッド重視のトーン設計、さらにA.S.W製のオリジナルエフェクターを中心に構成された2系統ボードによる緻密なサウンドコントロールです。ライブでは、クリーンとドライブを分けたデュアルシステムを駆使し、ペダルやセッティングの切り替えを的確に行いながら、曲ごとに最適な音像を構築しています。
また、川崎氏のInstagramでは、ギターへのこだわりや実際のライブ現場での写真も公開されており、ファンやプレイヤーからの注目も高い存在です。
サウンドの核心は「ローミッド重視」と「クリーンと歪みの役割分担」。この哲学を理解すれば、バンアパ風サウンドの再現にも大きく近づけるでしょう。
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使用アンプ一覧と特徴【THE BAND APART・川崎亘一】
川崎亘一氏のギターサウンドを支えるアンプセクションには、Orange製の大型真空管アンプヘッドが2台使用されているのが大きな特徴です。具体的には、クリーントーン用に「GRO100」、歪み用に「OR120」、そしてそれらを出力するキャビネットとして「PPC412」が用いられています。
「Orange=ブリティッシュ・ハイゲイン」といったイメージを持たれる方も多いかもしれませんが、川崎氏の使用するセッティングはむしろミッドローを中心に太さを意識した方向性です。本人曰く「ハイに寄りがちなバンド全体の音の中で、ローミッドをとにかく出すことだけを考えてエフェクターやアンプを選んでます」と明言しており、その意識が明確に機材構成に現れています。
GRO100はクリーン系統として用いられ、余分なコンプレッションや歪みを抑えつつ芯のある音を出力。クリーンでありながらも線が細くならないトーンは、ファンク・ソウル調のカッティングにも、和声感あるアルペジオにもマッチします。一方、OR120は中域に強く粘りのある歪みが特徴で、ドライブパートやリードプレイ時にその存在感を発揮します。
この2台のアンプヘッドは、それぞれ独立した出力経路としてボードで分けられており、川崎氏がライブ中にそれらをスイッチャーで自在に切り替える構成になっています。また、キャビネットには定番のPPC412を採用し、12インチスピーカー×4発でフルレンジかつダイナミックな出力を実現。ルーム感のある広がりをステージでも活かすため、セッティングにはマイキングやアンプ位置の調整にもこだわりがあることが伺えます。
スタジオレコーディングにおいても基本的にはライブ時のセッティングを踏襲することが多く、アルバム『Scent of August』などでも同様のアンプが用いられていると推察されます。
以下に、実際の使用アンプとその関連情報を表にまとめました。
使用ギターの種類と特徴【THE BAND APART・川崎亘一】

THE BAND APARTの川崎亘一氏が長年愛用しているメインギターは、Mosrite Mark-I Orange Custom Modelです。このギターは、1964年製のMosrite Mark-Iをベースにしたカスタム仕様で、本人が細部にわたりこだわり抜いた1本です。使用のきっかけは、川崎氏の父親がベンチャーズの熱烈なファンだったことから始まったそうです。幼少期から自然と耳に馴染んだMosriteのトーンは、川崎氏の音楽観の根幹を支えているといえるでしょう。
このMosriteは、バスウッドの美しい“ジャーマン・カーブ”ボディを持ち、ボルトオンジョイントのメイプルネックが組み合わされています。ヘッドのペグは左右非対称に配置され、トップジャック仕様といったヴィンテージ特有の設計も健在です。川崎氏によるカスタムとして、細めだったオリジナルのネックをやや太くしてグリップ感を向上させており、演奏時のフィンガリングの安定性も計算されています。
ブリッジ部はローラーサドルと“Vibramute”ブリッジを採用しながらも、アームは外されており、チューニングの安定性やプレイスタイルに合わせた調整が施されています。ライブでは主にオレンジ色のモデルを使用していますが、汗で滑りやすくなることを考慮し、状態に応じて黒いボディの別個体と交換して使っているようです。このあたりの運用方法にも、プロフェッショナルなメンテナンス意識が伺えます。
そのサウンドキャラクターは明瞭かつ立体感があり、ハイファイすぎない適度なコンプレッションと中域の押し出しが、川崎氏のカッティングや和音プレイを際立たせています。また、トーンのバリエーションを得るためにピックアップバランスやボリューム操作を積極的に活用している様子も、ライブ動画などから確認できます。
ちなみにサブギターとしてもMosrite系を使用している可能性が高く、ライブの写真ではオレンジ以外にも黒いボディが確認されており、同系統のスペア機を状況に応じて使い分けているようです。
以下に、実際に使用されたギター情報を表形式でまとめました。
使用エフェクターとボード構成【THE BAND APART・川崎亘一】
川崎亘一氏の足元には、ステージパフォーマンスを支える2枚構成の巨大なエフェクターボードが存在します。クリーンとドライブの系統を明確に分離し、それぞれ異なるエフェクターを配置することで、楽曲ごとの質感を緻密にコントロールしています。この構成は、A.S.W製のスイッチャーとバッファーによって統合され、複雑な信号経路を安定させる高度な設計思想のもとで運用されています。
右側のボードはクリーン系統が中心で、入力直後にA.S.W AGDR-401バッファーが配され、Jim Dunlop Cry Baby(ワウペダル)、A.S.W × Yamaboshi製スイッチャー、tc electronic Polytune(チューナー)などが並びます。さらに、クリーン系ならではのトーン整形を行うために、A.Y.A Tokyo Japan R-Comp(コンプレッサー)も搭載されており、この信号は左側のボードのディレイに送られます。
左側のボードはドライブ系統で構成されており、A.S.W AGDR-101(オーバードライブ)、AGDR-102(ディストーション)という川崎氏のメインゲインソースが搭載されています。さらに、A.S.WディレイやElectro-Harmonix POG2(オクターブ)、moogerfooger MF-101(フィルター)、MF-103(12-Stage Phaser)といったモジュレーション系も積極的に使用しており、空間的な表現力も高められています。
電源には両ボードともA.S.W製のパワーサプライを用いており、ノイズ対策も万全です。すべての構成に共通しているのは、「ミッド重視のサウンドを崩さずに、あくまでアンサンブルの中での機能性を優先する」という美学です。過剰な音色変化ではなく、あくまで“必要なときに必要なだけ”加える意識が垣間見えます。
また、アルバム『Scent of August』制作時には、ライブ構成とは異なるペダルも確認されています。Jim Dunlop Crybaby GCB-95やBOSS TR-2(トレモロ)、MAD PROFESSOR SWEET HONEY OVERDRIVEなど、よりシンプルでスタジオ向けのボードを構築し、オンオフは銀色のABCループボックスで制御されていたとの記述もあります。
以下に、川崎氏が実際に使用したエフェクターをカテゴリ別にまとめます。
機材名 | メーカー | Amazon最安値URL | アーティスト | ギタリスト | エフェクターの種類 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
AGDR-401 | A.S.W | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | バッファー | 信号安定用。右側ボードの最初に配置。 |
Cry Baby | Jim Dunlop | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | ワウペダル | ライブとスタジオの両方で使用。GCB-95も確認。 |
Polytune | tc electronic | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | チューナー | ライブ用クリーン系統に配置。 |
R-Comp | A.Y.A Tokyo Japan | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | コンプレッサー | クリーン信号整形用。ディレイへ接続。 |
AGDR-101 | A.S.W | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | オーバードライブ | ドライブ系統の核となる歪み。 |
AGDR-102 | A.S.W | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | ディストーション | ドライブ系統の追加歪み。 |
POG2 | Electro-Harmonix | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | オクターブ | 倍音補強や厚みづけに活用。 |
MF-101 Lowpass Filter | moogerfooger | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | オートワウ・エンベロープフィルター | 空間的効果や揺らぎを加える用途。 |
MF-103 12-Stage Phaser | moogerfooger | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | フェイザー | 広がりと奥行きを演出。 |
SWEET HONEY OVERDRIVE | MAD PROFESSOR | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | オーバードライブ | 『Scent of August』での使用が確認されている。 |
TR-2 | BOSS | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | トレモロ | 設定:RATE 12時、WAVE 3時前、DEPTH 3時前 |
TU-2 | BOSS | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | チューナー | レコーディング時のチューナーとして使用。 |
音作りのセッティング・EQ・ミックスの工夫【THE BAND APART・川崎亘一】

川崎亘一氏の音作りの根幹にあるのは、「アンサンブルの中で埋もれない、しかし出しゃばらない」という絶妙なバランスです。そのため、彼の音作りにはミドル〜ローミッドを重視したEQと、役割別に整えられたクリーン/ドライブの2系統が軸となっています。
特に本人が発言している「ハイに寄りがちなので、ローミッドをとにかく出すことだけを考えている」というコメントは重要です。OrangeのGRO100(クリーン)およびOR120(ドライブ)それぞれにおいて、あえてトレブルは控えめにし、プレゼンスやベースではなく、400〜800Hz帯の中低域を持ち上げるイメージでセッティングされています。
Orangeアンプの特性上、ゲインを上げすぎるとハイミッドが刺さってくる傾向がありますが、川崎氏はそこを抑え、ディストーションでも「厚み」を意識した設定にしています。GAINは中程度、TREBLEは12時以下、BASSは1時〜2時、MIDDLEは積極的にブースト(2時以上)というパターンが主流です。ライブ動画を確認すると、フレーズの一音一音が埋もれず、かつ刺さらないトーンであることがわかります。
クリーン側については、ピックのアタック感がしっかりと残るように、コンプレッサー(A.Y.A R-Comp)で軽く圧縮し、ディレイ(A.S.W)を軽くかけて空間感を演出。クリーンのEQはかなりフラット寄りで、アンプではなくピッキングと指板上の位置取りで音色を作っている印象があります。
歪み側では、オーバードライブ(AGDR-101)とディストーション(AGDR-102)の組み合わせが巧妙で、前者を常時ONにし、後者をリードやセクションごとに追加で踏むことで、ゲイン量を稼ぎつつも音の解像度を保っています。マルチ段階で音を積み重ねていく設計は、まさに「ライブで映える」構成です。
また、モジュレーション系の使い方にも独自のアプローチがあります。moogerfoogerのMF-101やMF-103は、フェイザー/フィルター効果を単なる装飾ではなく、音に“奥行き”を持たせるために使っている点が特徴的です。POG2によるオクターブはサビやユニゾンの重厚感を増す役割として活用されており、全体のミックスの中でも役割が明確に定まっています。
ミックス段階でも、川崎氏のギターは「空間の奥に置かれる」のではなく、「ボーカルの横で支える」ポジションとして調整される傾向にあります。センターからやや左、またはやや右に定位され、ステレオ感を意識したパンニングが施されます。EQ処理では、ローカットを80Hz程度に設定し、1kHz以上の高域は自然にフェードアウト。倍音感と中域の芯が失われないように注意深く処理されています。
このように、川崎氏の音作りは単なる「良い音」を目指すのではなく、「アンサンブルで映える音」「役割が明確な音」を突き詰めた結果であり、まさに職人的なセッティングと言えるでしょう。
比較的安価に音を近づける機材【THE BAND APART・川崎亘一】
川崎亘一氏のサウンドは、高度な信号分岐やオリジナル機材によって構成されているため、そのまま完全再現するのは困難です。しかし、ローミッド重視の輪郭あるクリーン&ドライブ、空間系やフィルター系の適切な使い方を理解すれば、より安価で再現度の高い構成も十分可能です。
まずギターですが、Mosrite Mark-Iの代替としておすすめしたいのは「Greco MR-1000」や「Fillmore Mosrite Style」など、モズライト系の国産モデルです。特にGrecoの旧モデルはピックアップの位置やネックの太さも近く、倍音感あるクリーントーンが得られます。中域が持ち上がる設計のため、川崎氏のような“歪ませても抜ける”サウンドに向いています。
アンプについては、Orange OR120やGRO100のような真空管アンプは高価なため、「Orange Crush Pro 120 Head」や「VOX MV50 AC/Rock」などの小型ソリッドステート/ハイブリッドアンプが候補になります。特にMV50は中域に張りがあり、ライブでも使えるレベルの音圧を持ちつつ、価格は非常に手頃です。
歪みに関しては、A.S.Wのオーバードライブ/ディストーションの代替として「BOSS SD-1 Super OverDrive」や「JHS Angry Charlie」がおすすめです。前者は中域の粘りが非常にモズライト系ギターと相性がよく、後者はOrangeアンプのような粘っこい歪みをシミュレートできます。
空間系では「tc electronic Flashback」や「BOSS DD-3T」などのディレイペダルが非常に有効です。クリーントーンに少しだけ残響を加えることで、川崎氏特有の奥行きのあるサウンドに近づけます。
モジュレーション系では「Electro-Harmonix Small Stone(フェイザー)」や「BOSS PH-3」が代替候補となります。特にPH-3は12-Stageモードもあり、MF-103に似たサウンドキャラクターを表現可能です。また、オクターブの代替としては「BOSS OC-5」が手堅い選択肢です。ポリフォニック性能とサウンドの安定性でPOG2の代替に十分対応できます。
以下に、比較的安価に川崎亘一氏の音を近づけるための機材候補をまとめました。
種類 | 機材名 | メーカー | Amazon最安値URL | アーティスト | ギタリスト | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
ギター(モズライト系) | MR-1000 | Greco | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | 中域重視でカスタムMosriteに近いトーン。国産中古市場に流通。 |
アンプヘッド | MV50 Rock | VOX | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | ミッド寄りの硬質サウンドでOrange系の歪みに近づける。 |
オーバードライブ | SD-1 Super OverDrive | BOSS | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | 中域強調型でAGDR-101系統の代替として有効。 |
ディストーション | Angry Charlie V3 | JHS Pedals | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | Orange風の粘りあるディストーションが再現可能。 |
オクターブ | OC-5 | BOSS | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | POG2の代替として、安定性と追従性に優れる。 |
フェイザー | PH-3 | BOSS | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | 12-StageモードでMF-103風の揺らぎを再現可能。 |
ディレイ | DD-3T | BOSS | リンク | THE BAND APART | 川崎亘一 | A.S.Wディレイ代替。直感的に操作可能な定番ディレイ。 |
総括まとめ【THE BAND APART・川崎亘一】

THE BAND APARTの川崎亘一氏の音作りは、単なる“エフェクターで音色を変える”という発想を遥かに超えた、構造的かつ哲学的なサウンドデザインに基づいています。彼の特徴は、ギターのトーンをただ前に出すのではなく、アンサンブル全体の中での役割を強く意識し、ミドルレンジ〜ローミッド帯にフォーカスを絞ることで、楽曲の“地盤”を支える音を創出している点にあります。
ギターは自身のルーツであるベンチャーズ由来のMosriteを、音楽的・構造的にカスタマイズし使用。アンプにはOrangeのGRO100とOR120という、個性の強い真空管ヘッドを2台使い分ける贅沢な構成。そのうえで、足元にはA.S.W製の信頼性高いエフェクターをベースに、クリーン/ドライブ系統を明確に分けた2枚のボードを操るという、緻密なセットアップが特徴です。
ライブでは、楽曲ごとにサウンドスイッチングを駆使し、シームレスにクリーンからドライブ、さらに空間系やモジュレーションエフェクトをコントロール。スタジオレコーディングでも、ライブセットに近いサウンドを基本としながら、アルバムごとに微調整されたボード構成が採られており、常に進化し続ける音の探求者としての姿勢が見られます。
その一方で、ギタリスト個人としての川崎氏は決して目立ちすぎることなく、ボーカルやリズム隊を支える役割に徹している点も魅力です。コードのボイシングやピッキングのニュアンスにおいても、高い技術力と音楽性の融合が感じられ、同業のギタリストたちからも非常に高い評価を受けています。
この音作りの本質は「無駄を削ぎ落とした上質なバランス」と「緻密な構成美」にあります。使用機材だけでなく、その配置や役割分担の考え方に触れることで、音を“鳴らす”というより“構築する”という視点が得られるでしょう。
もしこれから川崎氏の音を再現したいというプレイヤーがいるならば、機材選びも大切ですが、それ以上に「音の居場所を考える」姿勢と、バンド全体を俯瞰したEQ設計や音像コントロールへの理解が不可欠です。
彼のようなプレイヤーを目指すことは、単なるコピーではなく、自分のバンドサウンドを一段階引き上げるための最高のトレーニングにもなるはずです。
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