① 始めに(特徴紹介)
カコフォニー(Cacophony)のジェイソン・ベッカー(Jason Becker)といえば、シュラプネル・レコーズが生んだ「ネオ・クラシカル・メタルの申し子」として、今もなお伝説的な存在です。マーティ・フリードマン(Marty Friedman)とのツインギター・ユニットであるカコフォニーにおいて、ジェイソンが放っていたのは、単なる速弾きに留まらない「歌うようなスウィープ」と、バロック音楽的な構築美でした。
彼のサウンドの核となっているのは、エッジの効いた鋭い歪みと、極限まで磨き上げられたテクニックを支えるクリアな分離感です。1stアルバム『Speed Metal Symphony』で見せた衝撃的なシュレッド、そして2nd『Go Off!』で見せたより洗練されたメロディ・センス。ALS(筋萎縮性側索硬化症)という過酷な運命に直面しながらも、彼が残した音源には、ギタリストなら誰もが憧れる「ピッキングの粒立ち」と「流麗なレガート」の理想形が詰まっています。
なぜ彼の音がこれほどまでに注目されるのか。それは、当時の機材の限界を超えた表現力にあります。ラックプリアンプ全盛期において、彼は意外にもシンプルなセッティングを好み、指先のタッチと最小限のブーストで、あのバイオリンを彷彿とさせるリードトーンを作り出していました。この記事では、カコフォニー時代から全盛期の機材を徹底解剖し、ジェイソン・ベッカーの魂のサウンドに迫ります。
②使用アンプ一覧と特徴【Cacophony・ジェイソン・ベッカー】
カコフォニー時代のジェイソン・ベッカーのサウンドを象徴するのは、80年代後半のシュレッド・ギタリストたちがこぞって愛用した「ラック・プリアンプ」と「王道のマーシャル」の組み合わせです。1stアルバム『Speed Metal Symphony』のレコーディングでは、当時最先端だったA/DA MP-1が使用されました。このプリアンプはデジタル制御の真空管プリアンプで、きめ細かく深い歪みが特徴。ジェイソンのような超高速スウィープにおいても、音の芯が潰れない特性を持っていました。
一方で、ライブやソロ作『Perpetual Burn』の時期にかけては、Marshall JCM800 (2203)が歪みの核として活躍しました。このアンプ自体の歪みは意外と浅めですが、後述するオーバードライブでプッシュすることで、あの「ジリジリ」とした食いつきの良いハイゲイン・サウンドを創出していたのです。
また、カコフォニーの2ndアルバム『Go Off!』期には、当時エンドースメント契約を結んでいたCarvinのX-100Bが多用されました。このアンプは非常にヘッドルームが広く、クリーンから激しい歪みまでカバーできる名機として知られています。ジェイソンはレコーディングにおいて、特にクリーン・トーンを重要視しており、DI(ダイレクト・ボックス)を使用してミキサーに直結して録音する手法も取っていました。これにより、アンプのカラーを排した、クリスタルのように澄んだ透明感のある音像を実現しています。
| 機材名 | メーカー | Amazon | 楽天 | Yahoo! | メルカリ | 石橋楽器 | サウンドハウス | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A/DA MP-1 | A/DA | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 1stアルバムのメインプリアンプ。80年代シュレッドサウンドの象徴。 |
| JCM800 (2203) | Marshall | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | カコフォニー〜ソロ全盛期のメインヘッド。SD-1等でブースト。 |
| X-100B | Carvin | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 『Go Off!』期に使用。当時のエンドース機材。 |
上記のアンプ構成に加え、レコーディング環境により適宜使い分けられていたと想定されます。
③使用ギターの種類と特徴【Cacophony・ジェイソン・ベッカー】
ジェイソン・ベッカーの使用ギターは、彼のテクニカルなプレイを具現化するための進化を遂げてきました。最も有名なのは、モリダイラ楽器によるブランド「Hurricane」のLTD.2モデルです。特にホワイトのLTD.2は、カコフォニーの1stアルバム『Speed Metal Symphony』のジャケットで彼が抱えているもので、HSH配列のピックアップ、ローズウッド指板、そしてフロイドローズを搭載した、まさに80年代シュレッド・ギターの極致です。ソロ作のジャケットで見られるブルーのLTD.2は、24フレット仕様にメイプル指板が採用されており、より明るいアタックと高音域の演奏性を確保していました。
その後、カコフォニー2ndアルバム『Go Off!』期に入ると、CarvinのDCシリーズがメインに加わります。フレイムメイプルトップのDC200(トランス・ブルー)や、日本公演で使用されたバーガンディ・カラーのモデルが有名です。これらはKahlerトレモロを搭載しており、ジェイソンの大胆なアームアクションを支えました。
さらに、ALS発症の直前、デヴィッド・リー・ロス・バンドに加入した時期に製作されたPeaveyの「Numbers」プロトタイプは、彼のアイコン的な存在です。指板に散りばめられたカラフルな数字のインレイは、視覚的なインパクトとともに、彼の音楽的な遊び心を象徴しています。初期にはFender Stratocasterも使用しており、リアにはSteve Morseモデルのピックアップを搭載するなど、一貫して「レスポンスが良く、速弾きに適した」セッティングを追求していました。
| 機材名 | メーカー | Amazon | 楽天 | Yahoo! | メルカリ | 石橋楽器 | サウンドハウス | ギターの種類 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Hurricane LTD.2 (White) | Moridira | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | ソリッドギター | 1stアルバムジャケット使用。彼のキャリアを代表する一本。 |
| DC200 | Carvin | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | ソリッドギター | カコフォニー2nd〜来日公演期のメイン。Kahler搭載。 |
| Numbers Prototype | Peavey | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | ソリッドギター | 数字インレイが特徴。キャリア末期のメイン機。 |
カコフォニー時代から全盛期にかけて、プレイスタイルの進化に合わせて機材も最適化されていたと想定されます。
④使用エフェクターとボード構成【Cacophony・ジェイソン・ベッカー】
ジェイソン・ベッカーのエフェクター・セッティングは、驚くほどシンプルです。彼はアンプ自体のポテンシャルを最大限に活かし、ペダルは「味付け」や「補強」としての役割を重視していました。その筆頭が、BOSS SD-1 (Super OverDrive)です。このペダルをマーシャルの前段に配置し、ゲインを抑えめでレベルを上げる「ブースター」的な使い道をしていました。これにより、低域がスッキリとタイトになり、速弾きの際のピッキング・ニュアンスが明瞭になる「ジェイソン流のリードトーン」が完成します。
また、歪みペダルとしてBOSS DS-1 (Distortion)の使用も確認されています。こちらはよりアグレッシブな歪みが必要な際に踏まれていたようです。空間系については、80年代らしいラック式ディレイやコーラスが、リードプレイの際に「薄く、しかし確実に」かけられていました。具体的には、音が左右に広がるステレオ・コーラスや、一聴してかかっているか分からないほどショートなディレイを用いることで、単音のラインに太さと艶を与えていました。
特筆すべきは、レコーディングにおけるDIの使用です。ギター本来のクリアなトーンを損なわないよう、空間系を後がけすることを見越してドライな信号を記録していたことも、あの完璧な音像作りの一助となっていたはずです。過度なコンプレッションを避け、指先の強弱をそのまま音にするための、ストイックな機材選びが窺えます。
| 機材名 | メーカー | Amazon | 楽天 | Yahoo! | メルカリ | 石橋楽器 | サウンドハウス | エフェクターの種類 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| SD-1 Super OverDrive | BOSS | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | オーバードライブ | マーシャルのブースト用として必須のアイテム。 |
| DS-1 Distortion | BOSS | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | ディストーション | ライブ等で激しい歪みが求められる際に使用。 |
| Digital Delay / Chorus | Various | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | ディレイ | リードトーンに厚みを出すため、薄くかけられた。 |
当時のライブ写真やインタビューに基づき、これらの最小限のセットが組まれていたと想定されます。
⑤音作りのセッティング・EQ・ミックスの工夫【Cacophony・ジェイソン・ベッカー】
ジェイソン・ベッカーのサウンドを再現する上で最も重要なのは、「タイトな低域」と「プレゼンスの明瞭さ」の両立です。彼が好んだJCM800のようなアンプでのセッティングを想定すると、EQの基本は、Bass: 4, Middle: 7, Treble: 6程度に設定し、中音域にフォーカスさせるのが鉄則です。カコフォニーのような超絶ツインギター・アンサンブルでは、低域が膨らみすぎるとマーティ・フリードマンの音と干渉してしまうため、意図的にスッキリさせていたと考えられます。
歪みの量については、実は「思っているよりも少なめ」が正解です。指先のテクニックを際立たせるため、ゲインを上げすぎず、ピッキングの強弱でニュアンスが出る程度に留めます。そこにBOSS SD-1を噛ませ、Driveは9時方向、Levelを2時方向以降に設定することで、中音域をさらにプッシュし、音の輪郭を「カチッ」と立たせます。これが、あのバイオリン的なレガートや、正確無比なスウィープ・トーンを生む最大の秘訣です。
ミックスにおける工夫も見逃せません。アルバム『Perpetual Burn』等を聞くとわかりますが、ジェイソンのリードギターはセンターに非常に太く定位しています。これに対し、空間系(ディレイやコーラス)は非常に薄くかけられ、ドライ音のパンチを損なわないよう配慮されています。また、ソロパートでは3kHz付近の帯域が強調されており、他の楽器に埋もれない抜けの良さを確保しています。クリーントーンのレコーディングでは、あえてアンプを通さずDIを使用することで、高域のきらびやかさと圧倒的なレスポンスを実現。ミックス時に微量のプレート・リバーブを足すことで、冷徹なまでの透明感を演出していました。
このように、ジェイソンの音作りは「引き算の美学」に基づいています。歪みすぎず、響きすぎず。あくまでも自分の指が奏でる旋律を、最も鮮明にオーディエンスへ届けるための設定が貫かれていたと想定されます。
⑥比較的安価に音を近づける機材【Cacophony・ジェイソン・ベッカー】
ジェイソン・ベッカーのサウンドは、現代の安価な機材でも十分に近づけることができます。ポイントは「ブリティッシュ系アンプの歪み」と「それをプッシュするミッドブースター」の組み合わせです。予算5万円以内であれば、BOSSのKATANAシリーズなどのモデリングアンプは非常に優秀です。内蔵されている「Brown」チャンネルは、ジェイソンが愛したマーシャル系の歪みを簡単に再現できます。
エフェクターで再現する場合、まずはBOSS SD-1は必携です。実売価格も安く、ジェイソン本人が使用していたものと同じキャラクターが手に入ります。アンプをクランチ気味に設定し、SD-1でブーストするだけで、あの「シュレッドに適したタイトな歪み」の土台が完成します。また、マルチエフェクターであれば、ZOOMのGシリーズなどはA/DA MP-1のシミュレーターが搭載されているモデルもあり、往年のラックサウンドを現代的な使い勝手で手に入れることが可能です。
ギターに関しても、Hurricane等のヴィンテージを追うのは困難ですが、IbanezやJacksonのミドルクラスモデル(RGシリーズ等)に、DiMarzioのピックアップを載せ替えることで、ジェイソンに近いレスポンスを得られます。特にブリッジ側のピックアップを出力が安定したタイプに変更すると、スウィープ奏法時の音の粒立ちが改善されます。
| 種類 | 機材名 | メーカー | Amazon | 楽天 | Yahoo! | メルカリ | 石橋楽器 | サウンドハウス | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| マルチエフェクター | G2 FOUR | ZOOM | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 多彩なアンプモデルを搭載。低予算で音作りを完結。 |
| ギター用アンプ | KATANA-50 Gen 3 | BOSS | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 「Brown」chでマーシャル系の歪みが手軽に。 |
⑦総括まとめ【Cacophony・ジェイソン・ベッカー】
ジェイソン・ベッカーの音作りの本質は、機材の派手さではなく、徹底的な「明瞭さ」と「レスポンスの追求」にあります。カコフォニーという激動の時代において、彼がマーシャルやA/DA MP-1、そしてHurricaneのギターを選んだのは、自身のテクニックを一切の誤魔化しなく表現するためでした。
彼の音を再現するために最も必要な視点は、「歪みに逃げない」ことです。深い歪みは一見弾きやすく感じますが、ジェイソンのような美しいスウィープや正確なピッキングを再現するには、ゲインを適度に抑え、一音一音の輪郭を際立たせる設定が不可欠です。SD-1で中域を押し上げ、不要な低域をカットする。このシンプルなアプローチこそが、彼の音楽的な深みを支えていました。
ALSとの闘いの中でも、彼は音楽への情熱を失わず、今もなお世界中のギタリストに勇気を与え続けています。彼のサウンドを追いかけることは、単なる「音真似」を超えて、ギターという楽器がいかに美しく、雄弁に物語ることができるかを学ぶ旅でもあります。まずはBOSSのSD-1一つからでも構いません。ジェイソンがこだわった「指先のニュアンスを殺さない歪み」を、あなた自身の機材で体感してみてください。

