① 始めに(特徴紹介)
90年代後半から2000年代初頭の日本のギターポップ・シーンを象徴するバンド、Cymbals(シンバルズ)。そのメインソングライターであり、圧倒的なセンスで楽曲を構築していたのが沖井礼二氏です。彼はベーシストとして広く知られていますが、Cymbalsにおいては多くの楽曲でギターも自ら演奏・録音しており、その「ギタリストとしての沖井礼二」のサウンドこそが、あのパンキッシュかつスタイリッシュな楽曲の核となっていました。
沖井氏のギターサウンドの最大の特徴は、一言で言えば「ハイファイとローファイの絶妙な同居」です。60年代のブリティッシュ・インヴェイジョンを彷彿とさせるジャングリーなクリーン・トーンから、パンク・ニューウェイヴ的なエッジの効いた歪みまで、非常に幅広い音像を使い分けます。しかし、その根底には常に「ポップ・ソングとしての機能美」があり、ベースラインとの兼ね合いを完璧に計算された分離感の良いサウンドが特徴です。
特に、セミアコであるEpiphone Sheratonを使用した際の、箱鳴り感を活かしつつもタイトに引き締まったカッティングや、フィードバックを厭わないアグレッシブなストロークは、フォロワーに多大な影響を与えました。なぜ彼の音がこれほどまでに支持されるのか。それは、単なるヴィンテージ回帰ではなく、最新の(当時の)テクノロジーを駆使して「理想のポップ・ミュージック」を具現化しようとする、徹底したプロデューサー視点の音作りがあるからに他なりません。
②使用アンプ一覧と特徴【Cymbals・沖井礼二】
沖井礼二氏のCymbals時代におけるギター用アンプの選択は、非常にユニークかつ合理的です。驚くべきことに、彼はライブやレコーディングにおいて、一般的な大型真空管アンプを鳴らすのではなく、プリアンプである「Tech 21 SansAmp Classic」をメインの「ギター・アンプ」として据えていました。これは、彼が求める「ライン録りのような生々しさ」と「適度なコンプレッション感」を追求した結果と言えるでしょう。
SansAmp Classicは、スイッチの組み合わせによってFenderやMarshall、Boogieといった名機をシミュレートできる機材ですが、沖井氏はこれを単なるエフェクターとしてではなく、自身のトーンの核となる心臓部として扱っていました。スピーカーを通さない「ダイレクトな音」をPAへ送り、モニターから返すスタイルは、Cymbalsのタイトなアンサンブルにおいて、他の楽器とぶつからないクリアなギターサウンドを作るための秘訣だったと考えられます。
また、後年の活動やレコーディングでは、Logic ProなどのDAW内蔵アンプシミュレーターも積極的に活用しています。これは、彼が楽器そのものの鳴り以上に「楽曲の中でどう響くか」を最優先している証拠です。真空管の熱い歪みよりも、ソリッドで解像度が高く、かつどこか無機質なスタイリッシュさを求めた結果、これらの機材が選ばれたのです。
| 機材名 | メーカー | Amazon | 楽天 | Yahoo! | メルカリ | 石橋楽器 | サウンドハウス | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| SansAmp Classic | Tech 21 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | Cymbals時代のメインアンプ代わり。ライン的な質感が特徴。 |
| Logic Pro アンプシミュレーター | Apple | – | – | – | – | – | – | レコーディングで使用。プラグインでの音作りが基本。 |
当時のインタビューやライブ機材の証言に基づくと、上記のようなラインシステムが中心であったと想定されます。
③使用ギターの種類と特徴【Cymbals・沖井礼二】
沖井礼二氏がCymbalsでギターを手に取る際、最も象徴的なアイコンとなっているのが「Epiphone Sheraton」です。彼はこのギターを「シェラトン」と呼び、絶大な信頼を寄せていました。セミアコ構造特有の豊かなサステインと、ダブルカッタウェイによるハイポジションの演奏性の高さが、複雑なコードワークを多用するCymbalsの楽曲にマッチしています。特にリアピックアップでの、ジャリッとした高域の成分が含まれたトーンは、バンドの疾走感を演出する上で欠かせない要素でした。
また、セミアコ以外では「Fender Stratocaster」の使用についても本人が言及しています。ストラトキャスター特有のハーフトーンや、シングルコイルらしい歯切れの良いサウンドは、よりパーカッシブなカッティングが求められるセクションで使用されていたと考えられます。シェラトンが「壁」のようなサウンドを作る一方で、ストラトは「線」としての存在感を強調する際に選ばれていたのでしょう。
彼のギター選びの背景には、常に「リズム楽器としてのギター」という視点があります。ベーシストである彼にとって、ギターはメロディを奏でる道具であると同時に、ドラムとベースの間を埋める打楽器的な側面も強かったはずです。そのため、繊細なニュアンスよりも、コードの分離感が良く、ストロークした際に気持ちよく抜けてくる機材が優先的に選ばれています。
| 機材名 | メーカー | Amazon | 楽天 | Yahoo! | メルカリ | 石橋楽器 | サウンドハウス | ギターの種類 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Sheraton | Epiphone | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | セミアコースティック | Cymbalsギターパートのメイン。本人も愛用を公言。 |
| Stratocaster | Fender | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | ソリッド(シングルコイル) | 「ストラトでも」と言及あり。カッティングなどで重宝。 |
メイン機材としてのシェラトン、補完的な役割のストラトキャスターという構成で使い分けられていたと想定されます。
④使用エフェクターとボード構成【Cymbals・沖井礼二】
沖井礼二氏のエフェクターボードは、ベーシストとしての顔とギタリストとしての顔が混在した、非常に興味深い構成になっています。特に歪み系へのこだわりは強く、BOSSの定番モデルから、マニアックなブティック系ファズまでを網羅しています。基本的には「SansAmpでベースとなる音を作り、その上に必要に応じた歪みを乗せる」というレイヤー構造の音作りです。
特筆すべきは「Malekko Heavy Industry B:ASSMASTER」の使用です。これはMaestro Bass Brassmasterを再現したファズですが、沖井氏はこれをベースだけでなくギターにも適用し、強烈なアッパーオクターブ成分を含んだ破壊的なサウンドを生み出していました。Cymbalsの楽曲で見られる、ポップなメロディの裏で鳴り響く凶暴なギターサウンドの正体はこのあたりにあります。
また、BOSSのDS-1WやFZ-5といった「扱いやすくも個性のある歪み」を愛用している点も、ライブでの再現性を重視する彼らしい選択です。EQ(GEB-7)をボードに入れている点からも、アンサンブル内での帯域管理を徹底していることが伺えます。これらは、単に歪ませるだけでなく、「どの周波数を突き刺すか」をコントロールするための武器なのです。
| 機材名 | メーカー | Amazon | 楽天 | Yahoo! | メルカリ | 石橋楽器 | サウンドハウス | エフェクターの種類 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| SansAmp BASS DRIVER DI V2 | Tech 21 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | ダイレクトボックス | 足元ボードの核。音の太さを決定付ける。 |
| B:ASSMASTER | Malekko | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | ファズ | ベース用だがギターにも使用。過激な歪み担当。 | |
| GEB-7 | BOSS | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | イコライザー | 帯域調整用。不要なローをカットしハイを出す。 | |
| FZ-5 | BOSS | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | ファズ | デジタルならではの安定したファズサウンド。 | |
| DS-1W | BOSS | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | ディストーション | 技クラフト版。よりリッチな歪みが必要な際に。 | |
| TU-2 | BOSS | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | クロマチックチューナー | 定番のチューナー。ライブでの必須機材。 |
これらの機材を駆使し、緻密に計算された「Cymbalsサウンド」が構築されていると想定されます。
⑤音作りのセッティング・EQ・ミックスの工夫【Cymbals・沖井礼二】
沖井礼二氏の音作りを紐解く鍵は、その「EQ感覚」にあります。彼はベーシストであるため、低域(ロー)がアンサンブルにおいてどの位置を占めるべきかを完璧に理解しています。そのため、ギターの音作りにおいては、ベースと干渉する低い周波数をバッサリとカットし、代わりに2kHz〜4kHzあたりの「ギターがおいしい帯域」を強調する傾向があります。これが、Cymbalsの楽曲が非常に音数が多いにも関わらず、スッキリと聴こえる大きな理由です。
具体的なセッティング例としては、SansAmp Classicを使用する際、あえて高域を強調するスイッチ設定にし、カッティングの際の「チャカチャカ」というアタック音を際立たせます。一方で、サビなどでギターが壁のように鳴るシーンでは、ファズやディストーションを重ねますが、ここでも「濁り」を嫌います。複数の歪みを混ぜるのではなく、一つの強力な歪み(B:ASSMASTERなど)をタイトに鳴らすのが沖井流です。
ミックス面での工夫も見逃せません。Cymbalsのギターは、定位(パン)が極端に左右に振られていることが多く、センターに鎮座するベースとボーカルを邪魔しないように配置されています。また、意図的に「安っぽい」あるいは「細い」音を作り、それを複数重ねることで、厚みはあるけれど重苦しくない、独特の「渋谷系〜ポスト渋谷系」的な空気感を作り出しています。アンプシミュレーターを使う際も、あえてキャビネットシミュレーションをオフにする、あるいはあえて小さいスピーカーを鳴らしたような箱庭感を演出するなど、エンジニアリング的なアプローチが随所に光ります。
ライブにおいては、これらの繊細な音作りを再現するために、足元のGEB-7(ベース用EQ)で最終的な補正を行っていると考えられます。ギター用ではなくベース用EQを使うことで、より低い位置から中域にかけてのカット・ブーストを緻密に行い、その会場の鳴りに合わせて「シンバルズらしい抜け」を調整しているのです。これは、プレイヤーとエンジニアの両方の視点を持つ沖井氏ならではの高度なテクニックと言えるでしょう。
このように、単に「良い音のアンプを鳴らす」のではなく、「楽曲のパズルの中で完璧にはまるピースとしての音を作る」という姿勢が、彼の音作りの本質であると想定されます。
⑥比較的安価に音を近づける機材【Cymbals・沖井礼二】
沖井礼二氏のサウンドを再現するためには、高級なヴィンテージ機材を揃える必要はありません。むしろ、彼が愛用する「SansAmp」と「BOSS」を中心としたシステムは、現代のギタリストにとっても非常に手に入れやすく、再現性の高いものです。初心者の方や、限られた予算で「あの音」を目指す方におすすめの機材を紹介します。
まず、システムの核として「SansAmp Bass Driver DI V2」は外せません。ベース用ですが、これをギターのプリアンプとして使い、少しドライブを上げることで、沖井氏特有の「太くてエッジの効いたラインサウンド」の土台が作れます。これにBOSSの「DS-1」を組み合わせるだけで、初期Cymbalsのパンキッシュな歪みはほぼ完成します。また、セミアコの質感を出すためには、安価なモデルでも良いので「Epiphone Dot」や「Sheraton II Pro」など、セミアコ構造のギターを用意することが近道です。
さらに、1台で完結させたい場合は、最新のマルチエフェクター(GT-1など)で「SansAmp」のモデリングと「セミアコ・シミュレーター」を組み合わせるのも有効です。沖井氏の音は「加工された美しさ」があるため、シミュレーターとの相性が非常に良いのです。
| 種類 | 機材名 | メーカー | Amazon | 楽天 | Yahoo! | メルカリ | 石橋楽器 | サウンドハウス | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| プリアンプ | Bass Driver DI V2 | Tech 21 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | ギターに使っても優秀。あの「太いライン音」が作れます。 |
| ディストーション | DS-1 | BOSS | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 安価ながら沖井氏のパンキッシュな側面を再現するのに最適。 |
| マルチエフェクター | GT-1 | BOSS | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | 検索 | パッチを組めば、これ1台で複雑なEQ管理まで完結可能。 |
⑦総括まとめ【Cymbals・沖井礼二】
沖井礼二氏のギターサウンドを再現することは、単に機材を揃えること以上の学びがあります。それは「ギタリストとしてだけでなく、コンポーザー、あるいはベーシストとしての視点を持つ」ということです。彼の音作りは、常にアンサンブル全体を俯瞰した結果として導き出されています。ギター単体で聴くと少し細く感じたり、あるいはエグすぎる歪みに感じたりするかもしれませんが、それがドラムやベース、そして土岐麻子さんの透明感あるボーカルと混ざり合った瞬間に、魔法のようなポップスへと昇華されるのです。
もしあなたがCymbalsのような、知的で疾走感のあるサウンドを目指すなら、まずは「引き算」の音作りを意識してみてください。低域はベースに任せ、自分は高域の煌びやかさと中域の芯の部分だけを、SansAmpやEQで丹念に磨き上げる。そして、セミアコのシェラトンをかき鳴らす。その時、あなたの手元からは、あの頃僕たちが夢中になった、色褪せないギターポップの音が響き出すはずです。
沖井氏の機材選びが「定番のBOSS」や「プリアンプのライン使い」といった、ある種実利的なものであることは、これから音作りを学ぶ若いプレイヤーにとっても大きな希望です。高価なアンプがなくても、アイディアとセンス、そして徹底したEQ管理があれば、世界を彩るポップ・サウンドは作れるのです。ぜひ、彼の機材と哲学を参考に、あなた自身の「理想のポップ・サウンド」を追求してみてください。

