① 始めに(特徴紹介)
NUMBER GIRLのギタリスト・田渕ひさ子(たぶちひさこ)氏は、日本オルタナティブロック界の中でも特に鋭く、個性的なサウンドメイカーとして知られています。彼女のギターサウンドは、激しさと繊細さ、ノイズとメロディの境界線を自在に往来する独特のサウンドテクスチャーにあります。その存在感は、NUMBER GIRL再結成後も一切色褪せることなく、数々のライブや音源でリスナーの耳を奪い続けています。
代表曲「透明少女」「NUM-AMI-DABUTZ」「TATTOOあり」などにおいて聴くことができる、鋭く刺さるショートディレイと、絶妙に歪んだジャズマスターのフロントピックアップの音はまさに田渕サウンドの代名詞。アンプはほとんどクリーンのままで、BOSS BD-2によって歪みを足し、ブースター(KLON CENTAURなど)で音の輪郭と押し出しを強調。さらに、RV-3のモード1を使ってフィードバックにも似た飛び道具的なショートディレイを活用することで、唯一無二の立体的なサウンド空間を生み出しています。
彼女のプレイスタイルは、音作りの完成度と実験性を両立させており、「爆発するノイズ」と「静かに沁み込むリリック」の両極を行き来するNUMBER GIRLの音楽性に絶妙にフィットしています。また、toddleやbloodthirsty butchersでも異なる形で彼女の音が活かされており、幅広い表現力の源泉はこの徹底した音作りへのこだわりにあると言えるでしょう。
SNSアカウント(@chacoboom)でも時折機材情報を発信しており、ギタリストにとって非常に参考になる発言も多く見られます。この記事では、彼女の使用機材とその特性、音作りの哲学を丁寧に掘り下げていきます。
②使用アンプ一覧と特徴【NUMBER GIRL・田渕ひさ子】

田渕ひさ子氏の音作りにおいて、アンプは「クリーントーンで鳴らす大音量」という方針が一貫しています。NUMBER GIRL時代には、Marshall製のヴィンテージヘッド「Marshall Mark II(100W/1974年製)」をメインに使用し、そのクラシカルなトーンを活かしたセッティングを徹底しています。プレゼンスやゲインを上げることなく、あくまで「音の土台」としての役割を担わせており、その上にエフェクターで歪みを重ねていく構成です。
キャビネットは「ORANGE OR412(4×12)」で、マーシャルとの組み合わせによって、タイトかつ低域に粘りのあるサウンドが特徴です。アンプ側のセッティングとしては、「Pre 4」「Bass 10」「Mid 10」「Treble 4」「Vol1 4」「Vol2 4」といった設定で、特にBassとMidを極端に強調することで、エフェクター由来の歪みとの馴染みを重視したチューニングが施されています。
田渕氏本人のtoddle公式サイトでの発言によると、「マーシャルのハイがきつくなりすぎないようTrebleは控えめにし、BD-2で歪ませるためにアンプ自体は歪ませない」という考え方が基本であることが分かります。これはライブにおける音抜けや分離感にも大きく寄与しており、フロントピックアップとの組み合わせで柔らかく、それでいて芯のあるトーンを作り出しています。
また、彼女のアンプ選びは非常に合理的で、現場での取り回しや音の再現性を考慮した構成です。キャビネットをORANGEにすることで、BOSS BD-2などのペダルの高域成分が和らぎ、リスキーな高音が削ぎ落とされるようなバランス調整がされていると考えられます。
ライブやレコーディングでも一貫して同様のマーシャル+ORANGE構成を使用しており、田渕氏のサウンドの要である「しっかりした芯を保ちつつ、鋭く突き抜けるトーン」を支えているのがこのアンプセットだといえるでしょう。
③使用ギターの種類と特徴【NUMBER GIRL・田渕ひさ子】
田渕ひさ子氏のメインギターといえば、Fender USA製のヴィンテージJazzmasterです。特に使用頻度が高かったのは、1965年製の個体(シリアルナンバー:L77〜)で、NUMBER GIRL在籍時からtoddle期まで継続して使用されています。このJazzmasterにはジャンボフレットへの換装や、フロントピックアップを常用するなど、独自のモディファイと運用が施されています。高音のキラつきを抑えつつも、ミッドレンジに膨らみを持たせるサウンドキャラクターが、田渕氏の柔らかいカッティングや轟音ソロにマッチしているのが特徴です。
また、同時期には1964年製のJazzmasterも併用していたとされており、ライブやレコーディングでのセッティングに応じて使い分けられていたようです。どちらもヴィンテージ個体でありながら、音抜けや安定性を重視したプレイスタイルに寄り添うような調整がされており、ギター本体での音作りは「素材の鳴り」を重視する方針が伺えます。
注目すべきは、彼女が選ぶJazzmaster特有のサウンドです。フロントPUを常用することで、丸みがありながらも前に出てくるような存在感を持ち、特にBOSS BD-2との相性が非常に良いとされています。また、ギターの出力自体が控えめなことも、アンプをクリーン設定で鳴らしきる構成にフィットしています。
ライブでは、常にピックアップセレクターをフロント側に倒し、ボリュームもフルにしたまま操作するスタイル。細かい音量調整やトーンの調節はギター側では行わず、すべてエフェクターとアンプでコントロールするという割り切った設計思想が感じられます。
このように、田渕ひさ子氏のJazzmaster使用は、単なるヴィンテージ愛用ではなく、「歪ませたときにちょうど良く整うトーン」を作り出すための戦略的な選択であり、彼女の轟音サウンドに欠かせない要素です。
④使用エフェクターとボード構成【NUMBER GIRL・田渕ひさ子】

田渕ひさ子のエフェクトボードは、シンプルながらも「轟音」「鋭さ」「立体感」を高次元で両立するための工夫が凝らされています。ライブではKORGのチューナー「PB-01」を起点に、オーバードライブペダルが複数直列で接続される構成。特にBOSS BD-2Wとidea sound productのIDEA-TSX ver.2が核になっており、いずれも「常時オン」「音作りの要」として機能しています。
BOSS BD-2Wはメインの歪みとして使用されており、田渕氏はアンプをクリーンで鳴らしつつ、BD-2Wの歪みで音の芯を作るスタイルを取っています。このセッティングにより、ギターのボリュームを触らずに歪みの質感や音量感をコントロールできるよう工夫されているのです。
ブースターとしてはEarthQuaker DevicesのArrowsや、Klon Centaur Silverなどを併用。いずれも「ソロ時の持ち上げ」や「倍音感の追加」を目的に使用されており、使いどころが明確に分けられている点が特徴です。また、エフェクト信号をスムーズに流すためのトゥルーバイパススイッチャーとして、PROVIDENCE P-4TBも導入されています。
空間系では、BOSS CE-2W(コーラス)とRV-3、RV-6(リバーブ/ディレイ)が中心。特にRV-3はTATOOやNUM-AMI-DABUTZといった楽曲で印象的な鋭いフィードバックサウンドを作るために使われており、Mode1でのショートディレイ運用が核となっています。田渕氏特有のディレイ・リバーブの使い方は、サウンドに奥行きと切れ味を与える重要なポイントです。
これらのエフェクトを駆動するためのパワーサプライにはFree The ToneのPT-3Dを使用。安定した電源供給により、ノイズレスかつ安定したサウンドを実現しています。
音色の構成に無駄がなく、かつ大胆な音作りを支えるエフェクターボードは、田渕ひさ子というプレイヤーの哲学を映し出す鏡のような存在です。
機材名 | メーカー | Amazon最安値URL | アーティスト | ギタリスト | エフェクターの種類 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
PB-01 | KORG | Amazonで検索 | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | チューナー | ボードの起点。ライブの安定性を支える。 |
BD-2W | BOSS | Amazonで検索 | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | オーバードライブ | 常時オンで使用されるメイン歪み。 |
Arrows | EarthQuaker Devices | Amazonで検索 | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | ブースター | ソロブーストに使用。倍音を自然に追加。 |
IDEA-TSX ver.2 | idea sound product | Amazonで検索 | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | オーバードライブ | BD-2と組み合わせ、音のバリエーションを広げる。 |
centaur-professional | Klon | Amazonで検索 | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | オーバードライブ | SAPPUKEIツアーで使用。ソロ時の押し出しに。 |
P-4TB TRUE BYPASS | PROVIDENCE | Amazonで検索 | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | スイッチングシステム | 信号劣化を防ぐトゥルーバイパス。 |
CE-2W | BOSS | Amazonで検索 | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | コーラス | TATOO等で使用。立体感を追加。 |
RV-3 | BOSS | Amazonで検索 | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | リバーブ、ディレイ | Mode1でショートディレイ活用。鋭い音作りに貢献。 |
RV-6 | BOSS | Amazonで検索 | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | リバーブ | 後期で使用。広がりのある空間演出に。 |
PT-3D | Free The Tone | Amazonで検索 | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | パワーサプライ | 安定した電源供給を確保。ノイズ対策にも。 |
⑤音作りのセッティング・EQ・ミックスの工夫【NUMBER GIRL・田渕ひさ子】
田渕ひさ子のギターサウンドは、一聴して耳に残る「鋭利な質感」と「浮遊感のある奥行き」が大きな特徴です。そのため、EQ設定やミックス処理にも明確な狙いがあり、曲によって緻密なコントロールが施されています。まず、アンプセッティングについては基本的にフルレンジに近いセッティングで、ローを抑えすぎず、ハイミッドにフォーカスを置くのがポイント。これにより、バンド全体の音に埋もれない立ち上がりとエッジを確保します。
例えば代表曲「TATTOOあり」では、アンプのトレブルとプレゼンスを高めに設定し、BOSS RV-3のショートディレイで音に鋭さと空気感を追加。これにより、コードストロークの一音一音に芯がありながら、空間に広がっていくような感覚を演出しています。一方、「URBAN GUITAR SAYONARA」などでは、リバーブを深めに設定し、あえてコンプレッサーを使わずにダイナミクスを活かすことで、無機質さとエモーションを両立させた音作りがされています。
ギター本体のトーンノブはほとんど操作せず、常にフルオープン。エフェクター側で音色のトーンや質感を調整するスタイルで、特にBOSS BD-2WはGainを6〜7、Toneを控えめに設定し、アンプ側で最終調整するのが定番となっています。これにより、ピッキングの強弱やミュートの深さがそのまま音色に反映される、表現力の高いサウンドになります。
また、ライブPAでのミックスにおいても、田渕ひさ子のギターは極力中央ではなく左右どちらかにパンされることが多く、もう一方には中尾憲太郎のベースや向井秀徳のギターが配置され、音像に厚みと対比が生まれています。とくに中低域(250Hz〜400Hz)をPA側で軽く削ることで、歪みのモコつきを抑え、前に出る高域成分を際立たせる手法が多用されています。
ミックス全体でのバランスを考慮し、音数が多いパートではBD-2W+Klonを重ねたタイトなサウンド、バラード調の楽曲ではIDEA-TSX単体で輪郭を柔らかくするなど、セッティングはライブや曲調に応じて細かく切り替えられています。単に「歪みを強くする/弱める」といった発想ではなく、「空気感を作る」ためのミックス・EQ処理が徹底されており、ここに田渕サウンドの奥深さがあります。
⑥比較的安価に音を近づける機材【NUMBER GIRL・田渕ひさ子】

田渕ひさ子のサウンドは独自性が高く、特にFender JazzmasterとBOSS BD-2、RV-3を中心に構成されたクリーン寄りの歪みやショートディレイによる立体感が特徴です。これらを初心者や中級者でも手に入れやすい機材で再現するには、コンパクトエフェクターやマルチエフェクターの中でも再現性の高いモデルを選ぶのがポイントです。
まず基本となる歪みですが、BOSSの「BD-2W」は現在ではやや高価になっているため、よりリーズナブルに似た傾向を持つ「JHS Pedals 3 Series Overdrive」や「NUX Horseman」などが代替候補になります。特にHorsemanは、Klon Centaur系のブーストサウンドを意識して作られており、田渕ひさ子のクリーンブースト的なセッティングにもマッチします。
ディレイに関しては、田渕氏が使用しているBOSS RV-3は中古市場でも高値がついていますが、BOSS DD-3TやNUX Atlanticなどはショートディレイやリバーブを併用する場面において十分な性能を持ちます。DD-3TはRV-3と同様にシンプルなディレイ操作ができ、音のアタックを鋭くするセッティングも可能です。
モジュレーション系のエフェクトについては、CE-2Wの代替として「TC Electronic Corona Chorus」や「Hotone CHOIR」などが挙げられます。特にCoronaはモダン/ビンテージの両モードを選べるため、TATTOOあり等の浮遊感のあるサウンドにも対応できます。
ギター本体に関しては、Fender Jazzmasterの代替としてSquier J Mascis Jazzmasterが非常にコストパフォーマンスに優れています。アルニコピックアップの特徴により、田渕ひさ子が愛用するフロントPUのウォームなクリーンサウンドにも近づけることができます。
アンプについては、Marshallの100WヘッドとORANGEキャビの組み合わせは現実的には高額になるため、自宅練習やスタジオ使用であれば「Marshall DSL20CR」や「ORANGE Crush 35RT」などが候補になります。特にDSL20CRはプレゼンスやゲインを細かく調整でき、田渕サウンドに近いセッティングも可能です。
総じて、歪み・空間系・アンプに注目して代替機材を選ぶことで、3万円〜6万円程度の機材構成でも十分に「NUMBER GIRL風ギターサウンド」を体験できます。以下に、再現性が高く比較的安価な代替機材を表にまとめます。
種類 | 機材名 | メーカー | Amazon最安値URL | アーティスト | ギタリスト | 備考 |
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オーバードライブ | Horseman | NUX | リンク | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | Klon Centaur風ブースター。ソロ強調に最適 |
ディレイ | DD-3T | BOSS | リンク | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | RV-3のショートディレイ用途の代替に最適 |
コーラス | Corona Chorus | TC Electronic | リンク | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | CE-2Wの代替としてモダン/ビンテージ両対応 |
ギター | J Mascis Jazzmaster | Squier | リンク | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | 本人使用モデルの代替。PUとスケール感が類似 |
アンプ | DSL20CR | Marshall | リンク | NUMBER GIRL | 田渕ひさ子 | マーシャル系クリーン+歪みを再現できる万能モデル |
⑦総括まとめ【NUMBER GIRL・田渕ひさ子】

田渕ひさ子のサウンドは、轟音ギターロックの中に繊細さと鋭さを共存させる、唯一無二の個性を持っています。特にその音作りにおいては、「クリーンを基調にした歪み」「ショートディレイによる空間処理」「フロントピックアップを生かしたウォームな質感」といった要素が巧みに融合しており、それがNUMBER GIRLの圧倒的なライブ感と楽曲の説得力を支えています。
最も特徴的なのは、アンプをクリーンに保ちながらも、BOSS BD-2で常時歪みを加えるという独特のセッティングです。この手法は、あえてアンプのボリュームを下げることで、ブースターを踏んだときの音量変化を際立たせるという、非常に考え抜かれた構造です。田渕氏のプレイにおいて、ソロやフィードバックパートにおけるメリハリのある立ち上がりは、まさにこの手法に支えられています。
また、BOSS RV-3を用いたショートディレイによる「鋭い残響」も彼女の音色を特徴づけています。この設定により、単なるロックの歪みにとどまらず、ノイズやサウンドスケープ的な表現まで踏み込むことが可能となり、NUMBER GIRLの混沌とした世界観の中でも浮き立つサウンドを構築しています。
使用機材を見ると、決して最新のものや高級なものばかりではありません。むしろ長年にわたり信頼を寄せて使い続けられているエフェクターやアンプばかりで、それらをどう組み合わせ、どう活かすかという点において田渕氏の真骨頂が見えてきます。ギターはFender Jazzmaster、アンプはMarshall Mark II、キャビネットはORANGE。エフェクターはBOSS中心に組まれたボード構成。このように、一見オーソドックスな構成でありながら、音のニュアンスには明確な戦略があります。
つまり、田渕ひさ子の音作りを再現する上で最も重要なのは、「ギアそのもの」よりも「その使い方」にあると言えるでしょう。クリーンサウンドの取り方、エフェクターの組み合わせ、曲ごとの使い分け、これらを深く理解することが、NUMBER GIRLサウンドの再現には欠かせません。
サウンドメイクに悩む読者へ、田渕ひさ子の「音」は機材の選定だけでなく、「どのような音像を狙うか」という思想の表現でもあります。自分だけの音を模索する第一歩として、ぜひこの構成を参考にしてみてください。
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